本物のPDP-11を使う機会があれば最高なのだが、これは事実上不可能である。 したがって、資料からあれこれ想像するよりない。 さいわい、あらゆる情報を集積しているPDP-11サイトがあるので、 とくとながめることにしよう。
テレタイプ端末というのはプリンターとキーボードからなる端末である。 キーボードからたかたかと入力してリターンキーを押すと、 タタタタタと応答が印字されるわけである。 端末をさすのにttyという略語が使われるのはテレタイプ(TeleTYpe)からきている。 第6版のころのUNIXにはmoreやlessのようなページャーがない。 画面ごとに出力を区切るという発想そのものがなかったのであろう。
UNIX第6版標準のエディターであるedは行指向で、 しかも行を直接編集する機能がない。 これは、後戻りできないというプリンターの特性に合わせて作られていたためである。
edの編集機能を強化したエディターemはベル研の外からやってきた。 emのソースコードを含めたおもしろいページがある。 emに影響を受けてexが誕生する。 のちにexに加わった画面編集モードviは非常な人気を得ることになる。
メディアはリムーバブルになっていて、 ここに直径30cmあまりの円盤をがっちょんとはめて使う。 口で言ってもわかりにくいが、 さいわいRK05の資料を集めたページにその様子が収録されている。 ちょうど、電子レンジに分厚いピザを入れてスイッチを押すとか、そんなような感じである。 こういう資料こそ貴重である。
どれだけのメモリがあればどれだけのことができるか、 という感覚が当時と現在とではまるきり違う。 初期のPDP-11が「メインメモリ最大256kbyte」と言われてもさっぱり感覚がつかめない。 速度についても同様である。 このへんは「適当に想像する」のがせいぜいである。
PDP-11/40、PDP-11/45はメモリー保護機構や拡張命令などがオプションである。 が、UNIXを動作させるにはこういったオプションを組み込んでいることが前提になっている。 PDP-11/70は上記のオプションを装着したPDP-11/45に近いが、 アドレスが拡張されているほか、キャッシュを搭載している。
細かい話をはじめるときりがないのでUNIXに直接関係のない話ははしょる。 UNIXからはPDP-11/45とPDP-11/70 はほぼ同じものである。 PDP-11/40のメモリー保護機構は簡易版なので、 他の2機種のような命令とデータの分離や、 中断した命令を再開するための機構がそなわっていない。 こういった違いはアセンブラーのルーチンや変数cputypeを見て吸収するよう記述されている。
Lions本はPDP-11/40用のm40.sのみを掲載しているが、 これをPDP-11/45および11/70用のm45.sと比較したり、 cputypeを参照している個所(main.cとbio.cにある)を見ると違いがわかる。 そこまでする必要があるか、というと正直なところよくわからない。 が、「些末なことだから」と馬鹿にせずに丁寧に調べていくのがPDP-11の感覚をつかむコツのような気もする。
初期のPDP-11はひとセット揃えると、 大型冷蔵庫のようなキャビネットがいくつも並ぶことになる。 そのうえ電力をやたらと食うのでおよそご家庭むきではない。 「貴様、それでもミニコンか!」という気分になるが、 当時の「ミニ」でないコンピューターというと、 部屋が丸ごと占拠されてしまうようなものだったのだから無理もない。
後期のものならば、本体はフルタワーのPCとさしてかわらないサイズである。 ただし、第6版のUNIXがサポートしているような古いハードディスクは本体よりも大きかったりするので、 結局コンパクトとはなかなかいかない。
デバイスさえ用意すれば後期のPDP-11で第6版のUNIXを動かすのは、 それほど難しいことではないようだ。 てもとにUNIXの入っているメディアがなくても、 シリアルから(9600 baudで!)データを転送してブートストラップするツールが存在する。 すばらしい。すばらしすぎる。
中古のPDP-11を手にいれてUNIXを動かすのはこのうえない道楽である。 手間と暇をかけることを厭わなければ、であるが、道楽とはそういったものだ。 世の中には拾ってきたPDP-11を再構成して組み上げるという素敵な趣味の人がいて、 そのノウハウを公開している。 こういうことをやってる人の集団がClassicCompである。 メーリングリストのアーカイブには膨大な情報が集積されているのだが、 玉石混淆でくらくらする。 このほか、便利な集大成もある。
ただし、まともに買おうとするとまともな自動車が買えるくらいのお値段になる。 これもまた、 まれに売りに出ていることがある。