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事実婚と子供とお役所

1994年の秋、相棒と一緒にくらしはじめました。 翌春、ままごとのような結婚式はしたものの、婚姻届を出していないので、世間的には事実婚(古い言葉では内縁)ということになります。 2000年1月に事実婚のまま子供を産みました。 というわけで子供は非嫡出子です。 その後、子供の姓を父親と同じになるように変更しました。 日々の暮らしは事実婚だから、あるいは非嫡出子だからといって特に変わったことはありませんが、お役所との関わり方はちょっとだけ違ったかもしれません。

なお、このページの文章は、わたしたちが実際に体験したことと、本やインターネットなどを通じて得た知識をもとに書かれています。 したがいまして、手続きの方法等の事実関係については、その時点の情報に基づいています。 できるだけ法律的にも正確であることを期しましたが、間違いがありましたらご指摘くださればさいわいです。 また、事実婚や非嫡出子の法律上の地位などの解説はリンク集を参照ください。

[後日記] 2001年9月に第2子が、また2004年2月に第3子が生れました。 この子供たちについても基本的に同様の手続きを行いましたが、前回と違いのあった点を中心に追加・更新しました。

事実婚(分籍届) 〜  妊娠 & 胎児認知 〜  出産(出生届) 〜  子の氏の変更


1.事実婚

事実婚と法律婚の違いは手続きからいえば婚姻届を出すか出さないかだけです。 事実婚をするために役所に行く必要はないといえばないのですが、そのままでは自分の籍は親の戸籍に残ったままになります。 ちょうどよい機会なので、自分個人の独立した戸籍を作るためにそれぞれ分籍届を出し、ついでに本籍地を配偶者と同じ場所(2人の新居の住所)にしました。

分籍届

戸籍謄本だけは前もって取り寄せておく必要がありますが(郵送でも取り寄せられます)、記入も簡単なので役所で届出用紙を1枚もらってその場で書いて、受理もあっという間でした。

住民票

わたしたちの事実婚のはじまりは、わたしが住んでいる家に相棒が引っ越してくる形でした。 相棒が、その転入届の転入先としてわたしが世帯主となっている住民票を指定し、世帯主との続柄を「夫」と書いて出したところ、自動的に(未届)がつけられて「夫(未届)」という表記になってしまいました。

「未届」という言葉が気に入らなければ「同居人」という続柄を選択することもできますが、事実上の夫婦として法律的な権利を主張するには「未届」がついていても「夫(または妻)」という表記であったほうが有利なケースもあるようです。 「夫(未届)」(または「妻(未届)」)という続柄が認められるのは、双方に他に法律上の配偶者がいない場合に限られます。


2.妊娠 & 胎児認知

妊娠判明後、胎児が順調に育っているのがわかった時点で妊娠届を出し、母子健康手帳を受け取りました。 また相棒に認知届を出してもらいました。 ちなみに、妊娠届の処理は一瞬ですみましたが、認知届は提出してから受理されるまで1時間もかかったそうです。 担当者が不慣れだったことに加え、わたしの本籍地(東京都江戸川区)と住所地(東京都江東区)が異なっていたため、妊娠届の確認などの連絡にも手間取ったようです。

[後日記] 第2子および第3子のときにも同じ手続きをしたら、20分もかからず受理されたそうです。何が違ったのでしょうね?

妊娠届

妊娠してはじめて、こんな変な名前の届があることを知りました。 戸籍上の届ではなく、母子健康手帳(母子手帳)を受け取るために住んでいる場所の役所または保健所に提出するものです。母子手帳のほか妊婦検診の無料券やパンフレットなどをもらえます。 この手続きは法律的に結婚していようがいまいが何の違いもありません。 医師による妊娠の診断書などは不要でしたが、自治体によって詳細は異なるようです。

認知届

子供が生まれる前であっても認知をすることができ、これを胎児認知と呼びます。 胎児認知も出生後の認知と同一の認知届の書式を使いますが、書き方等にいくつか注意が必要です。 父親が日本国籍・母親が外国籍の場合には、子供が日本国籍を取得するのに胎児認知は重要な意味を持ちますが、父母とも日本国籍の場合の胎児認知のメリットは「万が一、妊娠中に父親に何かあっても安心」「出生届に父親の名前を書いて出せる」といった気持ちの問題が大きいかもしれません(胎児認知をしていない非嫡出子の場合、出生届の父の欄は空白でないと受理してくれません)。

なお、胎児認知をしても子の出生まではその事実は戸籍ではなく戸籍の附票にのみ記録されます。 出生届が出されて子の戸籍が作成された時点で認知の事実も同時に戸籍に載ります。

[参考] 死産届

不幸にして妊娠12週(84日)以上で死産(流早産を含む)した場合は死産届を提出しなければなりませんが、胎児認知された子の場合は12週に満たない流産も死産届の対象になります。 余談ですが、妊娠12週以上での死産は法律上は出産とみなされ、産後休暇(8週間)・健康保険の出産一時金支給(30万〜)の対象にもなります。


3.出産

子供が生まれた1週間後に出生届を出しました。 病院からもらった出生証明書にわたしが記入し、相棒が江東区役所まで持っていきました。 認知届が受理されるのに1時間かかったと書きましたが、出生届が受理されるには2時間近くかかってしまったそうです。 非嫡出子というだけならともかく、胎児認知済の非嫡出子の出生届なんてものは、区役所の戸籍係をやっていても滅多に目にする機会のないもののようで、マニュアルと首っ引きだった模様です。

[後日記] 胎児認知届と同じく、第2子および第3子のときははるかにスムーズに処理され、30分くらいで受理されたそうです。

出生届

子供が生まれたら、生まれた日から14日以内(生まれた日を含む)に出生届を出さなければなりません。 非嫡出子の場合は以下のようになります。

非嫡出子の姓と親権者

非嫡出子は出生届と同時に母の戸籍に入り、母と同じ姓を名乗ることになります。 父と同じ姓を名乗るためには、父が認知をした上で氏の変更の手続きをとる必要があります。

非嫡出子の親権者も生まれた時点では母になります。 父が認知をした場合でもその点は同じですが、その場合は父母の協議によって父を親権者に指定することができます。 手続きは役所に届を出すだけです。 父から母に親権を戻す場合も同様です。 ただし、残念ながら現在の日本の法律では、事実婚の場合は両親が共同で親権を行うことはできません。

わたしたちの場合は、親権者は母のままとすることにしたので、親権者の変更手続は経験しませんでした。

その他の届

生まれた子供をわたしの被扶養者にするために、職場の健康保険組合と勤務先にそれぞれ書類を提出しました。


4.子の氏の変更

出生届を出した後、子供の姓を父親と同じにするために氏の変更の手続きをしました。 この手続きについては事前情報も少なく家庭裁判所の許可が必要ということもあって身構えていたのですが、思っていたよりも簡単に済みました。 特に家庭裁判所の審判の一連の手続きはファックスと郵送と電話だけで用が足りてしまいました。 わたしと相棒それぞれの戸籍のある江戸川区役所に持参した入籍届の処理も手際よく処理され、20分くらいで受理されました。 その結果、子の親権者は母であるわたしのままで、子の姓と戸籍は父と同じという状態になりました。

今回行ったのは、認知された非嫡出子を母の戸籍から父の戸籍に移すというものでしたが、その他にも、両親が離婚して母が旧姓に戻った場合に、父の戸籍に残った子(姓は父と同じ)を母の戸籍に移す(姓を母と同じにする)ときも、まったく同一の手続きが必要となります。 そのためか、役所の戸籍係も入籍届の処理には慣れていたようです。

一般に、子の姓(法律用語では姓ではなく氏といいます)が両親の一方と異なる場合は、家庭裁判所の許可を得て、同じになるよう姓を変更することができます。 子が15才未満の場合には実際に手続きを行えるのは子の法定代理人(親権者)となります。 つまり、子の姓を父の姓と同じにするための手続きであっても親権者が母であれば母が手続きをする必要があります。 どうしても父が手続きをしようとすれば、親権者をいったん父に変更してから手続きし、また親権者を母に戻すという面倒な手順をふまなければならなくなります。

(1) 家庭裁判所への「子の氏の変更許可」申立

家庭裁判所に子の氏の変更許可を申し立てる手順は以下の通りでした:

  1. 管轄の家庭裁判所の確認
    子の住所地の家庭裁判所が管轄の家庭裁判所になります。 実際にどこになるかは最高裁判所のホームページなどで確認できます。
    わたしたちの場合は東京家庭裁判所でした。

  2. 申立書の用紙のとりよせ
    家庭裁判所家事手続案内からファックスで申立書と説明をとりよせます。 申立書の書式は全国共通なのでどの番号からとりよせても構いません。 項目は「子の氏の変更」です。 項目内容の説明に「両親が離婚した後に,子供の氏(子供の戸籍)を変更するための手続」とありますが、非嫡出子の認知後の氏の変更の場合でも用紙はそのまま使えますし、記載例や用意する書類については必要に応じて読み替えれば大丈夫です。
    受信したファックス用紙が感熱紙またはA4サイズの場合は、申立書をB4普通紙にコピーしておきます。

    [後日記] 第2子のときは、申立書の用紙サイズがA4に変わっていました。 これにともなって用紙が2枚にわかれましたが、記入する項目はまったく同じです。 また、感熱紙の場合に普通紙にコピーする必要があるのも同じです。

  3. 戸籍謄本のとりよせ
    子の戸籍謄本(=母の戸籍謄本)と父の戸籍謄本をとりよせます。 子の出生後または父の認知後に転籍などによって本籍地を移動させていなければ、それぞれ最新のもの1通で足ります。 ただし本籍地が遠隔地にある場合は、この後に入籍届を提出するときにも戸籍謄本は必要となります(家庭裁判所に提出した戸籍謄本は返却されません)ので、まとめて各2通とりよせてしまうほうが手間が省けるでしょう。

  4. 申立書の記入
    ファックスでとりよせた記載例にしたがって記入しますが、今回のように認知後の母の氏から父の氏への変更の場合、記載例とは以下の点が異なるので注意します(東京家庭裁判所のファックスサービス番号から取り寄せた記載例に準拠しています)。

    添付書類「父・母の戸籍謄本」の「父」に○
    申立ての趣旨「2 父」に○
    申立ての実情 「父・母と氏を異にする理由」の「父」に○、「5 父の認知」の「5」に○、認知の年月日を記入。
    「申立ての動機」の「5 父・母との同居生活上の支障」の「5」と「父」に○(または「6 その他」の「6」に○をして理由を書く)

  5. 申立書の郵送
    管轄の家庭裁判所の家事事件係に以下をまとめて郵送します(もちろん持参しても構いません)。 住所は上記の家事手続案内のファックスに記載されています。

    [後日記] 収入印紙・郵便切手の額は2001年10月時点では変更ありませんでしたが、2004年3月には収入印紙の額が800円に値上がりしていました。

(2) 家庭裁判所への「子の氏の変更許可」審判

第1子の場合

申立書を郵送してから週末をはさんで4日後の夕方、東京家庭裁判所の書記官を名乗る男性から電話がありました。 申立についてもう少し事情を聞きたいということだったので、事実婚で親子3人で一緒にくらしていること、2人の合意で子供の姓を父親と同じとすることにしたことを説明しました。

その翌日の朝、相棒と二人で寝ている子供をながめながら洗濯物をたたんでいる時に2度目の電話がありました。

「子の氏の変更許可」審判は、わたしたちから見ると以上ですべてでした。 上記電話の2日後には、こちらから郵送した申立書に「上記申立の趣旨記載のとおり許可する」という一文と家事審判官名のハンコを押した文書のコピー(審判書の謄本)が、未使用の80円切手4枚とともに返送されてきました(使用されたのは審判書の謄本返送用の1枚だけだったようです)。

審判の進み方には担当の審判官・書記官によって違う点もあるでしょうから、かならずこの通りにいくとはいえないかもしれませんが、家裁の審判という言葉の印象よりは簡単なものといってもよさそうです。

[後日記] 第2子の場合

第2子のときに同じ手続きをしようとしたら、今度は電話では済まず、家裁で行われる審判にわたしと相棒2人そろって出向くことになりました。

申立書を投函した日から数日後、わたしと相棒のそれぞれに、指定の日時に東京家庭裁判所に出頭するようにという審判期日呼出状が届きました (指定された日時は、10日ほど先の平日の午後1時半でした)。

当日、指定の時間より10分ほど早く、申立の当人である子どもも連れて参上したところ、5分も待たされずに審判室に呼ばれ、審判がはじまりました。 出席者は調査官(女性)、書記官(男性)、わたしたちと子どもを入れて計5名だけです (子どもは、申立の当人ではありますが、いてもいなくてもいいようです)。

審判は、正面に座った調査官がこちらの申立の内容を確認する質問をし、それにわたしたちが答えるという形式で進みましたが、内容的には上の子の場合の電話での問答とまったく同様のものでした。 対立する論点もなくなごやかに進み、調査官からは「夫婦別姓の法案もなかなか通りませんね」という発言もありました。
はじまってすぐに子どもがぐずりはじめたときに調査官が「大丈夫ですよ、すぐ終わりますからね」と言ったとおり、「それでは特に問題がなければ、申立のとおりに許可しましょう」と調査官が言って審判が終了するまで、やはり5分程度でした。

審判が終わると、書記官に「審判書はすぐ発行できると思いますので、少々お待ちください」と言われ、再度待合室で待っていると、10分もかからず審判書の謄本と未使用の80円切手(今度は3枚)を渡されました (今回の謄本は第1子のときとは違い、必要事項だけを記述した文章を、A4の用紙にワープロうちしたものでした)。

結局、家裁での用は全部で20分ほど、指定された時刻からは10分も過ぎない時間にすべて完了しました。 家裁に出向く手間を別とすれば、第1子のときと実質的なやりとりは変わらないのですが、電話では済まなかったのは、たまたま担当した調査官の仕事のやりかたによったのでしょうか。

[さらに後日記] 第3子の場合

第3子のときは、第1子のときよりさらに簡単に済みました。

今度は、申立書を投函した日から数日後、相棒宛に東京家庭裁判所から郵便が届きました。中には、今回の子の氏の変更申し立てを承認するかどうかの確認書が入っており、これに署名・捺印して返送すると、その数日後にはあっさり審判書の謄本と未使用の切手が郵送されてきました。

最近は簡単に済むのか!と思っていたら、このページを見て情報を寄せて下さった人のお一人は、2004年にまったく同様のケースで子の氏の変更の申し立てを行ったところ、家裁の担当官に理解がなく、かなり苦労されたそうです。私の事例なども先例として上げた結果、最終的には認められたそうですが、担当官による裁量がかなり大きいというのが実態のようです。

(3) 入籍届

氏の変更の手続きは、姓を同じにしようとする親の戸籍への入籍届によって完了します。 難しいことはありませんが、記入見本がやはり父の氏から母の氏への変更になっている場合がありますので注意してください。

(4) 子の氏の変更にともなう手続き

まだ生まれて2ヶ月たたないうちに氏を変更したため、子供の氏名の入った書類も少なく、特に手続きを必要としたのは以下の二つだけでした。


mail: kazu at tom-yam.or.jp (atを@に置き換えてください) (最終更新日: 2006.2.11)