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『神、この人間的なもの

 
  なだいなだ 著
  岩波新書、2002年9月20日
  価格:780円(税別)


 「宗教とは何か」ということに、わかりやすい答えの一つを提供してくれる本です。
 

  精神科医の立場から「宗教」という現象を見ると、こうなるよ、ということを、とてもわかりやすく教えてくれます。
  「宗教」という現象に対して、信じきってしまって外の世界を無視している、あるいは外界が見えなくなってしまっている立場ではなく、また、宗教と言うものを無知ゆえの愚かな幻想と断定するのではなく、たいへん公平な立場で説明してくれていると思います。
  
宗教とは集団精神療法としての側面を持ちますが、それ以上に、「異常心理」「狂気」の側面も持っています。

  しかし、(ここからが精神医学の立場から強調される大事な点なのですが)、まず、何が異常で何が異常でないか、人間の心の状態にはっきりとした全引きはできない、ということ。医者は便宜上、「○○病」「○○症候群」という名前をつけますが、本当は、「正常」と「異常」の線引きはできない。わたしたちが正常だと思っている他人や自分の中に狂気は存在しているし、精神病と言われて入院している人のほうが、実は考え方がまともだったりすることがあるということを、わからなければいけません。
  また、何が「異常」で何が「狂気」かというのは、時代と社会が変われば、まるっきり変わってしまうということ。つまり、昔の人たちの行動を現代人が「おかしい」と思っても、昔の人たち自身にとってはそれは正常であったということ(例:大日本帝国の大和民族至上主義)。また、現代人が「まとも」だと思っていることも、未来に人にとっては「おかしい」と見られる可能性が高いということ。これも認めなければいけません。
  これらのことを踏まえた上で、「異常」とか「狂気」と呼ばれている心理が、実は人の心を癒す大変な力を持っている可能性があるということを、ポジティヴに評価してゆこう、というのが、この本の方向性です。
  きちんと読むことで、何が宗教のあるべき姿なのか、宗教とはいかに大切なものかがわかります。
  また危険な宗教とはどんなものなのか、そして、「宗教」と名がついていなくても、「宗教的」な危険な集団心理(たとえば国家主義)が世の中にはある、ということもわかります。
  今のところ(2004年8月段階で)三十番地キリスト教会の牧師が、宗教の存在意義を疑っている人に、まっさきに読んでいただきたい、オススメ本です。
(2004年8月30日記)

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