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『土佐からハワイへ −奥村多喜衛の軌跡−

 
  中川芙佐 著
  「奥村多喜衛とハワイ日系移民展」実行委員会 発行
  高知新聞企業 発売
  2000年5月5日
  価格:2000円(税込み)
  和英対訳


 「ハワイにこんな教会があったの?」とビックリ。
 ハワイ日系人社会の基礎を作った人びととキリスト教の歴史が、ひとりの牧師の活躍を通して浮かび上がる。

  ここに紹介した写真では小さくてわかりにくいけれど、実はこのお城のような建物、教会です。
  ハワイのホノルルにあるマキキ聖城キリスト教会。この会堂は1932年からのもので、高知城をモデルにしたものなのです。真珠湾攻撃の際にも、きっと日本軍のパイロットから見えたはずですが、おそらくビックリしたことでしょう。
  この教会は、土佐(高知)出身で、1894年にハワイに渡り、ハワイ日系人社会の基礎を築いたひとりでもある、奥村多喜衛という牧師が中心になって創立した教会です。
  奥村多喜衛は、熊本洋学校から同志社に移り、新島襄の教育を受けた宮川経輝に大阪教会で洗礼を受け、同志社神学部で学んだ後、ハワイに渡ってキリスト教の伝道に従事しました。キリスト教の伝道と言っても、移民の社会は混乱を極め、牧師の仕事は「よろず屋」であり、「伝道だけでなく、耕主と労働者間の通訳、英語の教授、領事館への願い届け、郷里への手紙の代筆、送金の手続き、挙げ句には夫婦げんかの仲裁に至るまで、日本人の日常生活全般の世話が彼らの仕事であった」(p.75)ようです。なるほど〜、牧師って礼拝堂の中だけが仕事場じゃないのね、と感心します。
  
  ハワイに新天地を求めて日本を出て行った日本人たちの苦労と、日本人社会を少しでもよいものにしようという熱意に突き動かされて、キリスト教の立場から必死に尽力したひとりの牧師の人生には、深く思いにしみるものがあります。
  著者の中川さんは、奥村牧師の軌跡を追う取材のなかで、信仰に導かれ、洗礼を受けた方です。
  この本が出るまで、ハワイ日系人社会と高知とキリスト教のつながりに注目していた人はまれでした。奥村多喜衛という人物の貢献に光をあてたこの本の功績はたいへん大きいと言えます。
  また、同志社につながる人は、ぜひこの本も読んでいただきたい。同志社からこんな人がハワイで活躍していたんだ、と驚きの連続です。
  とてもとても読みやすい、わかりやすい文章ですし、ところどころ中川さんの取材の息吹も感じられ、取材に同行しているような楽しさもあります。オススメします。
  (2004年9月5日記)

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