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『靖国問題

 
  高橋哲哉(たかはし・てつや) 著
  ちくま新書
  2005年4月10日
  価格:720円 (without tax)


 靖国神社の問題点を、とてもわかりやすくまとめてくれています。頭の整理に役立つでしょう。
 

  靖国神社をめぐる問題を、感情論に流れることなく、明晰に整理して解説してみせる本。
  この本のまえがきに著者が、「靖国神社の歴史を踏まえながらも、本書では、靖国問題とはどのような問題であるのか、どのような筋道で考えていけばよいのかを論理的に明らかにすることに重点をおきたい」と語っているとおり、靖国問題を理解し、頭のなかを整理するにはいい本であると言えるのではないでしょうか。
  各章のテーマは……
  第1章:「感情の問題」、第2章「歴史認識の問題」、第3章「宗教の問題」、第4章「文化の問題」、第5章「国立追悼施設の問題」
  ……となっていて、それぞれの視点から、多面的にわかりやすく理解できます。

  三十番地キリスト教会図書室としては、特に、以下の諸点で、この本を入門書として推薦します。
  ●靖国神社の機能が、戦没者の「追悼」ではなく、天皇のために死んだ兵士のみを選別して「顕彰(ほめたたえる)」ことにあるのだ、ということをしっかり指摘してくれている。
  ●「神社非宗教」という論理のカラクリによって、まるで靖国信仰や国家神道を宗教ではないかのようにごまかしている政治家や右翼の主張に対して、それは実は危険な宗教に他ならないのだ、ということを明らかにしてくれている。
  ●靖国神社のような死者崇拝を「日本の文化」であるという主張に対して、それは文化ではなく、たかだか明治政府以降の政治によって作られてきたものに過ぎないことを明らかにしてくれている。
  ●国立追悼施設を作ろうが作るまいが、国家が介入して戦死者について何らかの式典を行なう場を持つ場合、どのような形にしても「靖国化」する危険性があるのであり、いちばん大事なことは国家が戦争を放棄することにあるのだ、ということを明言してくれている。

  上記の4番目の●にあるような日本の非軍事化については、確かに「机上の空論」という批判もされている本です。
  しかし、このような政治的な問題には、中立という立場がありません。また、「非軍事化など夢想だ」と言う人々が単に右寄りになっているというだけのことかも知れません。日本が軍事拡張とアメリカ追随を続けている限り、さらなる危険に足を踏み入れてゆく泥沼もちゃんと予想しておかなければならないのですから、「非軍事化」を夢想だと簡単に切り捨てるのではなく、どうすれば戦争を起こさず、関わらず、自他ともに軍備を縮小してゆけるかという理想を失ってはならないのだろうと思います。
  もっとも、「非軍事化」については、この本の著者は、論理的に考えれば、「それを実現しない限り、第2、第3の靖国問題は続く」と指摘し、国家というものの危険性を指摘しているにとどめており、最終結論として「非軍事化」すべきだ、とまで言い切っているわけではないので、抑制がきいているほうだと私は思います。

  それよりも、この本は、問題点を実に明快にスッキリと整理してくれている点が評価できると思います。
  これを入り口にして、それから、さらに、いろいろな見解を抱えた本を読んでいけばいいのではないでしょうか。
  というわけで、入門書としてこの本を、おすすめします。(2005年10月8日記)

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