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『よくわかる新約聖書の世界と歴史

 
  山口雅弘 著
  日本キリスト教団出版局
  2005年11月10日
  価格:1,800円 (+ tax)

 新約聖書の背景をコンパクトにまとめ、大切な視点を提供してくれている入門書です。
 

  最近の聖書学の研究の成果をふまえて、とてもわかりやすく新約聖書の時代の社会的背景、経済的背景、宗教的背景を解説してくれている本です。特に神学の勉強をしなかったという人でも、キリスト教やイエスや聖書に関心がある人なら、とてもよく理解できる内容ではないかと思います。

  新約聖書が生まれた背景となるギリシア文化、ローマ帝国とヘロデ大王、多様なユダヤ教諸派などが、よく整理された形で紹介されています。また、パウロの手紙と各福音書が生み出されてくる状況を描きながら、初期のキリスト教の発展の様子がダイナミックに描かれています。そして聖書が正典化され、古カトリック教会に発展してゆく様子も、背景の時代史と教会の政治的な動きとのからみあいを中心に説いてくれています。

  聖書学というのは、ともすればイエスの人間性や歴史性を強調するあまり、熱心な信仰者につまずきを与えてしまいがちで、なかなか信仰と相性が悪い面もあったりするのです。しかし、この本は最近の研究を踏まえつつ、ふつうのクリスチャンの信仰内容をも尊重する語り口で書かれており、著者の配慮のあとが見えます。

  ただ、それでも、たとえば、イエスはベツレヘムでは生まれなかった、おそらく生まれ育ったのはナザレであろう(p.82)とはっきり書いてありますし、パウロの示す福音(罪理解、十字架による赦しと救いの理解、キリスト理解、復活理解、教会理解など)が最初期のキリスト教の代表でも主流でもなかった(p.106)ともはっきり書いてあります。また、教会を組織化してゆくなかで父権制的な組織論が導入されていった(p.158以降)ことなども包み隠さず書いてありますので、私たちの関心をきちんと刺激してもくれます。

  この本では、初期のキリスト教はパウロの主張していたようなものだけではなく、実に多様な立場、ものの考え方、活動が存在していたのだという、その多様性が何度も強調されています。また、その中でも特に女性の教会における役割が非常に大きかったことも指摘されています。

 新約聖書を生み出していった、初期のキリスト教の多様さを見つめなおすことによって、現在のキリスト教が単一原理的な排他主義にならないように警鐘を鳴らしている本でもある、と読めました。この本、オススメです。
(2007年8月6日記)

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