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『イエスはなぜわがままなのか

 
  岡野昌雄(おかの・まさお) 著
  アスキー新書
  2008年6月10日
  価格:743円 (without tax)


 どうしてこんなわがままな人物を、世界のクリスチャンは信じられるのだろうか?
 

 この本の切り口がいいです。新約聖書の中のイエスは決しておとなしく、いかにも善良そうな物静かな人物であるかのような印象を抱いている人も多いでしょうし、じっさいクリスチャンでさえ、そのようなイエスを描くことがよくあります。しかし、じっさいに新約聖書を読んでみると、この本が指摘するとおり、イエスはたいへん理不尽なことを言ったりやったりしているのです。
 たとえば、自分が空腹であったときに、たまたまそばにあったいちじくの木が実をつけていないのを見て、「枯れてしまえ」と命令して枯らしてしまう……。奇跡を起こす力があるんだったら、実をつけさせたらよかったのにね、というこの本のつっこみがとても面白いです。
 ほかにも、ユダに向かって「おまえなんか生まれてこなければよかった」という、かなりキツイ言葉をかけるイエスがいたり、神殿で商人たちを追い出すような暴動を起こしたり、たしかにイエスには理不尽で暴力的な面があります。
 しかし、そんなイエスの姿を、下手なすりかえ文句で包み隠したりせずに、率直な言葉で紹介し、そんなイエスを著者は「ラディカルな人物だ」と評します。つまり根源から何事も問い返す人物です。ノンクリスチャン向けのキリスト教書で、イエスのラディカルさをきちんと言葉にする本は少ないのではないでしょうか。そういう意味でも存在価値のある本だと思います。

 本の前半部分は、そんなイエスのラディカルさぶりを紹介し、後半ではキリスト教の良質の入門書になっています。
 「罪は悪ではない」、「教会は建物でも組織でもない」、「祈りは願いではない」、「真実は事実ではない」、「信じるのはなぜか」、「信じたら何かいいことがあるのか」、「『復活』はなぜ重要なのか」、「世界にはなぜ残酷なことがあふれているのか」、「神とは何か」……といった、かなり深い問題が、とても平易な言葉で語られています。
 基本的には、たとえば三十番地キリスト教会の牧師と比較して、かなり保守的な信仰をお持ちの方です。しかし、わかりやすい自由な言葉で信仰を伝えようとする誠実さが、行間からにじみ出ています。
 実は、この本は聞き書きをまとめたライターさんがおられ、その方は、拙著『信じる気持ち はじめてのキリスト教』の編集を担当してくださった方です。そう思って読むと、聞き書きでここまで筋道立ったわかりやすい本を作り上げたこの方の有能さがあふれている、とも思います。

 キリスト教にちょっとでも関心のある人には、おすすめです。また、ベテランの信徒の方も、信仰を知らない人にどういう風に信仰のことを説明したらいいのか、についてのヒントにもなるのではないかと思います。

 (2008年8月8日記)

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