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『天国で君に逢えたら

 
  飯島夏樹(いいじま・なつき) 著
  新潮社
  2004年7月31日
  価格:単行本1,200円 (without tax)/400円(without tax)


 著者のクリスチャンとしての隠されたミッション。
 

 文芸作品としての評価は二分しているようです。そんなに難しい話ではありません。さらりと読めてしまう作品です。でも、読んだ後に、なんだか爽やかな気分が残る小説です。たぶん、著者である飯島夏樹さんの人間性が反映しているのでしょう。

 日本を代表する世界級のプロ・ウィンドサーファーであり、肝臓ガンで38歳の若さで世を去った飯島夏樹さん。肝移植では救われないことがわかり、余命宣告を受けた彼が見出したもうひとつの天職が、作家という仕事でした。この小説には、そんな彼の人生体験が色濃く反映しています。
 小説家としては素人だったかもしれない。しかし、読み進むうちに、彼の人間に対する素直な愛情が満ちていることに気づきます。すべての人はどんな生き方をしたかに関わらず赦されており、等しく愛されている、という彼の信念が表れています。

 そして、もしクリスチャン、あるいは聖書を読んだことのある人なら、この小説のなかに、巧妙に聖書の言葉やイエスの物語が織り込まれていることにお気づきになると思います。それは、愛ちゃんという小児ガンと闘う子どもの言葉や、舞台となるがんセンターの近くの神社の入り口に張り出されている教訓じみた言葉などにあらわれています。
 著者をモデルにした映画やテレビや、彼のことを取り上げたウェブサイトがありますが、それらのなかからは、実に巧妙にキリスト教の要素が抜き取られています。しかし、素顔の飯島夏樹さんは、友人が訪ねてくれば聖書を朗読して聞かせたり、朝は暗いうちから起き出して、聖書を読んだり、世界中にいる友人たちの救いのために祈ったり、そんな人だったのです。
 そして、そんな経験の中から、直接聖書の話をしたり、イエスの話をしても、人は抵抗を感じてしまうけれども、手紙という形なら人は耳を傾けてくれるだろう、と考えたことから、この小説のなかの「手紙屋」というアイデアにつながっていったのです。

 ですから、この小説を、単に読みやすい。親しみやすい小説として読むのではなく、少し違った視点、すなわち飯島夏樹さんが何を信じ、何を一番大切にしていて、何を伝えたいと思っていたのかを意識する視点から読んでみていただければ、また違った味わいが生まれてくるのではないかと思います。

 (2009年2月15日記)

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