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『神さまってなに?』(14歳の世渡り術シリーズ)

 
  森達也(もり・たつや) 著
  河出書房新社
  2009年6月30日
  価格:単行本1,200円 (without tax)

 こんな本も書きたかった(iChurch.me牧師より)。
 中学生から大人まで、みんなで読める宗教学の入門書です。
 

 神とはなんなのか。宗教って怖いんじゃないのか……そういう、日本人ならごく自然に抱きがちな疑問から入り、仏教、キリスト教、イスラームという、いわゆる「世界宗教」を紹介し、その上で、宗教の危険なところと良いところをわかりやすい形で考察した上で、神さまの存在について、公平な立場で思いをはせてみる、という構成になっています。

 「14歳の世渡り術」という叢書の中の1冊なので、だいたい中学生くらいから読めますし、文章も平易ですが、扱っている問題は大人でもじっくり考えるべきテーマでもあり、特に宗教教育がなされていない日本人の多くにとっては、いい読み物になるのではないかと思います。

 この本はまず冒頭から、宗教の危険性についてあからさまに問うことから始めています。しかし、この本に好感が持てるのは、危ないんだけど、それでもこれだけ世界中のたくさんの人が何らかの宗教に帰依しているということは、何か大切な価値あるものもあるに違いない、というバランスの取れたスタンスを保っているからだろうと思います。

 そして、仏教、キリスト教、イスラームという3つの世界宗教の開祖(ブッダ、イエス、ムハンマド)のついて、その生涯と教えの特徴を紹介しています。この紹介で面白いのは、ブッダにしろ、イエスにしろ、ムハンマドにしろ、地上に生きた実在の歴史上の人物としてのそれらの人びとの生涯や教えと、現在広がっている仏教、キリスト教、イスラームの教えが、必ずしも同じではない、ということを明言していることです。
 たとえば、仏教は元来宗教的ではなく、むしろ人間解放の哲学で、後になって宗教化された面がありますが、そういうことも明記しています。
 またイエスの愛の教えを本当に守っていたら、キリスト教国が戦争するのはおかしい、ということもはっきり言っていますし、「原理主義」のルーツはキリスト教、ということも述べられています。非常に誠実で、素直で、特定の立場に偏りすぎない立場だと感じました。

 この本でもっとも意義深いのは、日本で、神道が国家主義のために利用され、たくさんの人が命を落とすことになったこと、国家神道と天皇制の問題を生み出した明治政府と、モデルとされたヨーロッパのキリスト教とのかかわりを、きちんと、わかりやすく述べている点でしょう。
 そして、そういう問題に対して、当の日本人自身が、きちんと考えていない、という問題も指摘しています。

 最後は、それでも「神」を求めざるを得ない人間の心のありように改めて目を向けています。
 そして、特定の宗教集団、特定の国家、民族、人種といった、集団を絡め取る原理としての宗教ではなく、一人の人間として、素直に「神」に向かうことに可能性について暗示しています。

 私が若い人向けに宗教について考える入門書を作るとしたら、こんな感じかな、という形がそのまま出てきたような本のように感じています。
 各ページのデザインも、本文の下に随時注の吹き出しが登場する形になっているのですが、これも『信じる気持ち』の第1稿では、こんなデザインも試したりはしていたんですよね。ですから、他人が書いた本という気がしなかったです。
 単行本ですから、読み物としてとらえたほうがいいのですが、これをもう少し章立てを整理して、資料や考察などの要素を盛り込んだら、いい宗教学の教科書ができあがるのではないでしょうか。
 この本、おすすめですよ。
 (2010年5月28日記)

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