『隣人愛のはじまり−聖書学的考察』(シリーズ神学への船出01)
辻学(つじ・まなぶ) 著 新教出版社 2010年6月30日 価格:単行本1,700円 (without tax) 隣人愛というプリズムからキリスト教が立体的に見えてくるようです。 まず、ルカによる福音書の隣人愛についてのイエスと律法学者のやりとりと、それに続く「善いサマリア人」のたとえ話があって、そこを起点にしながら、イエスの視点、古代イスラエル宗教の視点、初期ユダヤ教やラビ・ユダヤ教の視点、パウロの視点、ユダヤ人キリスト者の視点、ヨハネ文書の視点、2世紀のキリスト教の視点……といった風に、「隣人愛」という概念を、歴史的に先から後に流れてゆく変化を見てゆきます。 隣人愛というのは、今となってはキリスト教の中でももっとも大切な教えと誰もが認めるものでしょうし、それだけでキリスト教を象徴できるぐらい重要なものです。 しかし、その隣人愛も、キリスト教固有のものではなく、またキリスト教の中でも決して一枚岩の括弧とした概念ではありませんよ、ということを明らかにしながらも、かといって読者を不安の奈落に落とすことなく、現代人がキリスト教の隣人愛をどうとらえてゆけばよいかを提案してくれている、心優しい本です(批判的に聖書を研究しながらも、聖書と人間に対する愛がある、と言うべきでしょうか)。 そして、それによってキリスト教が立体的に見えてくるのも面白いところです。 「聖書学的考察」とありますが、ギリシア語やヘブライ語に溺れる恐れもなく、日本語による解説に徹してくれていて、読みやすくなっています。 また、注がたくさんあって、それが各ページの下にすぐ出ているので、初心者向けにも配慮がなされています。 思えば、隣人愛は確かにキリスト教を象徴するような概念であり、行為ですが、それは既にキリスト教を超えて、この世の中で大きな役割を期待されているものでもあるかもしれません。そんな状況の中で、そもそも隣人愛がどのようなルーツを持ち、どのような意味の広がりを持つのかを知ることで、私たちがどのように隣人愛を生きるのかを考える助けになるよい本だと思います。 というわけで、この本、おすすめします。 (2010年7月3日記) |
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