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『はじまりのキリスト教』

 
  佐藤 研(さとう・みがく) 著
  岩波書店
  2010年7月21日
  価格:単行本3,600円 (without tax)

 「今」そして「未来」のキリスト教を探る為に、「はじまり」のキリスト教を知る。
 

  ぼくにしては、最近珍しく2回繰り返して読んだ本です。
 ■「キリスト教徒」というアイデンティティの起源はどこにあるのか。
 ■洗礼(バプテスマ)とは元来何だったのか。イエスは自分が洗礼を受けたのに、なぜ人には洗礼を授けなかったのか。
 ■イエスの復活とは一体実際には何だったのか。
 ■パウロのダマスコ途上の宗教体験の真実とは何か。
 ■初期のキリスト教会が実は決して一枚岩ではなく、様々な流派に分かれて、互いに緊張関係があったというのは本当の事か。
 ■イエスがイチジクの木を枯らしてしまう呪いの物語は、本当は何を言いたいのか。
 ……などなど、現代のキリスト教が直面している困難さに応えるテーマ選びがなされていて、非常に関心をそそられ、目次を見た瞬間に買ってしまっていました。

 著者の佐藤研さんは立教大学の教授をしておられる方ですが、岩波書店から刊行されている新約聖書の翻訳にも携わっておられましたし、『福音書対観表』という4福音書+トマス福音書を含めた比較表なども出版しておられます。これまで田川建三さんのように一匹狼で闘っていた人はともかく、主流派に近い所で活躍しておられる学者の中では、ただ一人「イエス批判の可能性」という言葉をはっきりと使って聖書を読み直そうとしておられる急先鋒の先生です。

 それだけに、この科学的、批判的、世俗的な見方が浸透しきった世界で、聖書の物語をどう捉え直し、今も活きている物語として多くの人に語り直すためにはどうすればいいのかということを課題とし、悩み、格闘している人間にとっては、佐藤さんの問題意識と研究の方向性は、多くの示唆を与えてくれるものとなると思います。

 ただこの本は、テーマ的にはとても興味深い反面、学術論文誌に掲載されたものにほとんど手を加えずに本に収録されたようで、神学に関心が高かったり、神学を学んでいる神学生、信徒か牧師、神父でないと、難解な部分が多々あるような気がしました。書かれてあることはとても面白いのですが、言葉が素人や初心者向けにこなれているわけではないのです。そこだけが残念でしたが、内容的にはとても刺激的でした。

 こなれていないとは言っても、難解な用語ばかりが並んだコチコチの文章ではなく、学術誌に載る割には噛み砕いた言葉で平易に述べてありますので、チャレンジしてみる価値は十分あると思います。神学部の1−2回生には是非読んで欲しい本です。
 (2011年9月4日記)

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