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『旅のパウロ その経験と運命

 
  佐藤研 著
  岩波書店、2012年2月28日
  価格:2,500円 (+税)

 パウロの旅した道を実際にたどって初めて見えてくる真実
 

 パウロの神学思想を聖書の本文から解説してみようという研究が多いなかで、この本の異色な所は、「パウロの書いた手紙は、いわば旅の派生物であって、彼の全体ではありえない。もし彼が今のように便利な世の中に生きていたら、あれほどの手紙を書いただろうか。むしろ彼の旅路を実際に辿ってみることで、彼の伝えようとしたもの、彼の戦略、彼の成功、そして彼の失敗や彼の矛盾が明らかになってくるのではないか」という思考から編み出されたものだということです。
 もともとは岩波書店による連続講座を文字に起こしたもので、そのために非常に読みやすく、まるで旅日記や紀行文を読んでいるような楽しさがあります。写真も随所に配置されていて、パウロの旅のイメージもふくらみますし、実際にその場に自分も行ってみたいという思いをかき立てられました。
 そして、パウロの旅程から見えてくる事実から、再びパウロの書いた手紙やルカの使徒行伝の記述を見つめ直すとき、改めて彼の信念や苦悩がリアルに浮かび上がってくるあたりは、非常にエキサイティングなものがあると感じました。
 パウロについては、彼の手紙の中の発言において、賛否両論が別れているのが現状ですが、この本は、矛盾や問題点や失敗をかかえながらも、彼が何をひたむきに目指していたのかということに焦点を当て、愛情深く描ききっています。

 残念なのは、本文の地名表記と、地図の地名表記が一致していない場所が散見される所です(「ティルス」と「テュロス」など)。著者の呼び方と引用された地図の呼び方が異なっていても深刻な問題ではないのですが、たとえば「地図では『◯◯◯』となっている)などの配慮があると、一般的な読者にも親切かなと思いました。
 また、地図や写真が必ずしも本文の場所と一致しておらず、前後にかなりズレているので、当該箇所の本文を読みながら、ずいぶん前のページの地図をめくったりして、何度も往復するといったしんどさがありました。
 瑣末な問題かも知れませんし、著書の佐藤先生より岩波の編集者の問題ではないかと思いましたが……

 いずれにせよ、上記のような問題点は表面的なもので、本質的なことではありません。
 使徒パウロとその伝道旅行に関心がある人にとっては、非常にわかりやすく、興味深く、為になる面白い書物です。この本を是非、オススメいたします。
 (2013年2月10日記)

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