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辻学著 『偽名書簡の謎を解く パウロなき後のキリスト教
 辻学 著
 新教出版社 2013年8月1日
  価格:2,200円 (+税)

 日本初の「第2パウロ書簡」入門書です。
 

 新約聖書27巻のうち、21巻は手紙です。その手紙の中の7巻はパウロが執筆した手紙ですが、6巻はパウロの名をかたって、パウロ以外の人が、パウロ亡き後に書いたものです。
 エフェソの信徒への手紙、コロサイの信徒への手紙、テサロニケの信徒への手紙(二)、そして「牧会書簡」と呼ばれるテモテへの手紙(一、二)、テトスへの手紙の合計6巻がそれであり、これらをまとめて「第二パウロ書簡」、「擬似パウロ書簡」、あるいは「パウロの名による手紙」とも呼ばれています。
 聖書の解説書や注解書には、福音書やパウロ自身による手紙を取り扱ったものが多くありますが、この「第二パウロ書簡」を特に取り上げて、その全体像を解説した書物は、おそらく日本ではこの本が最初であろうと思われます。

 この本の前書きにもあるように、第二パウロ書簡はある意味で私たちと似た立場に立った著者たちの作品です。パウロという巨大な存在が世を去った後、パウロとは違う状況に生きる人びとが、いかにパウロが言っていないことを補ったり、パウロの主張を修正したりしながら、パウロを再解釈していったかを見て取ることができるからです。
 もう少し具体的な話をすると、例えばパウロは自分が生きている間に世の終わりが来ると思っていましたが、第二パウロの著者たちは、それが来ない(終末の遅延)という状況に対応しなければいけませんでした。そのために、新たに解釈し直したメッセージをパウロの名によって発信する必要がありました。これは、やはりいくら待ってもこの世の終わりが来ないという私たちの状況に似ています。

 ただ、これらの第二パウロがそのまま私たちの暮らしの参考になるかというと、そういうわけではありません。
 例えば「牧会書簡」と呼ばれる3巻に含まれる男性優位的な家庭訓などは、現在のクリスチャンには到底呑み込めない内容です。
 しかし、批判的に検証すると、それらの訓示の文書が、当時の世の中で男性優位な教会組織を作るために用いられたのだということが読めてきます。
ここからさらに推測すると、後々男性支配的になっていった教会が、実は数多くあった女性の活躍する教会やその教会の文書を排除・廃棄していったのではないか、とも考えられるわけで、その意味でも第二パウロは資料として価値があると言えるでしょう。
 そして、そのような批判的な視点で第二パウロを捉えることにより、逆にパウロの思想も立体的に見ることができるわけです。

 こういった第二パウロの読み方を指南してくれる入門書として、この本は最適の書と言えるでしょう。
 日本ではまた第二パウロの本格的な注解書はわずかにしかありませんが、今後、この本の著者による注解書が出されることを期待させるイントロダクションという感があります。それを楽しみにしていようと思います。

 ところどころ、著者のちょっとシニカルなユーモアも混じった文体も読んでいて楽しく、専門用語も少なくて読みやすく、すんなり納得して腑に落ちる一冊です。
 というわけで、この本、オススメします。
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