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アルノ・グリューン著 『私は戦争のない世界を望む
 アルノ・グリューン 著
 村椿嘉信、松田眞理子 共訳
 株式会社ヨベル 2013年11月11日
  価格:900円 (+税)

 なぜ戦争が起こるのか」「どうすれば戦争を避けることができるか」を探る

 戦争や暴力を容認する文化や人間の深層にあるものを心理学的に分析し、「なぜ戦争を企てる政治家が現れるのか」、また「なぜ自分は自由で民主的だと思っている一般市民が戦争を企てる野心家を指示してしまうのか」について説明し、戦争をやめるためにはどうすればいいかを考えている本です。

 幼少期から愛情深くありのままの姿を認められて育たなかった人間や、財産や地位において劣等感を感じ続けながら過ごしてきた人間は、自分には価値がないと感じたり、自分に対する憎しみを抱くようになります。 
 そのような無価値感や自分への憎しみを抱く人は、それを麻痺させるために、敵対者を作って憎悪をかきたてたり、自分が一体化できる強い対象を見つけようとします。国家主義者や愛国者を自称する人々の多くはこのような心理的な問題を抱えている。
 この本では、アドルフ・ヒトラーやジョージ・W・ブッシュといった人物を主に例として挙げていますが、これは現代日本のネトウヨと呼ばれる、他国に対してやたらと居丈高な態度を貫こうとする右翼的な人びとについても当てはまることだと思いました。自分には何の値打ちもない、自分はなぜ生きているのかわからないという空しさや哀しみから目を逸らすには、圧倒的な権威と自分を同化するのがいちばん簡単です。伝統宗教がカルト化する時にも同じ現象が起こっていると言えるでしょう。
 特に、国家主義においては、「毅然たる態度」「断固たる主張」「有無を言わせぬ権力」「絶対に撤退を認めない覚悟」などなどといったものに美学を感じるようになってしまうと、とんでもなく暴力的で破壊的な行動が始まり、わざわざ敵を作り、憎悪を煽り、戦争を始め、死ぬことさえも美化してしまうという狂気に陥ってゆきます。
 その心のメカニズムをこの本は心理学の観点から、わかりやすく説いて聴かせてくれます。

 このような観点に立てば、たとえば今の日本で、為政者が労働問題をさらに悪化させて若者世代の雇用と生活を不安定化させたり、将来に不安を抱く若者をたくさん作り出すことは、戦争のできる国をつくることと一体化していることがよく理解できます。
 常に怒りと不満と無価値観を家庭内に抱く国民を大量生産し、その無価値観をごまかすための敵意や憎悪を他国や他民族に向けさせ、失業した若者が喜び勇んで国防軍に入隊していくだろうというルートが既にできあがっています。
 もっと簡単に一言で言えば、自分は無価値だと感じざるをえないような若者をたくさん作り出せば、より戦争しやすい国を作ることができるのです。

 では、戦争を今後起こさないために私たちができることは何か。
 それは「共感」と「夢」という、人間的な感情を豊かに養い育てることです。
 自分の弱さ、欠点、失敗等々から目をそらさず、弱くても良い、人間としてそこにいるだけで自分は価値があると自覚すること。また他者にも同じ価値があるという共感があれば、戦争を無くす事ができます。
 そのためには、まず自分を受け入れると同時に、子どもたちに対しても、その子の弱さや失敗を軽蔑せず、粘り強く受け容れて、それに一緒に耐え、一緒に乗り越えるという教育法が必要になるでしょう。また、自分をありのままに受け止めることと同時に、他の子も同じようにそのままで愛されるべき存在なのだということを体験してもらうしかないでしょう。
 述べられていることの根底には心理学の裏付けがありますが、心理学の専門用語を一切使わずにそのことを説明してくれています。
 とても良書ですので、是非お読みになることをおすすめします。

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