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ジョン・ドミニク・クロッサン 『イエスとは誰か 史的イエスに関する疑問に答える
 ジョン・ドミニク・クロッサン著、飯郷友康訳
 新教出版社 2013年12月25日
  価格:1,900円 (+税)

 新しいイエス理解への招待
 ジョン・ドミニク・クロッサン博士のイエス論を、コンパクトに、しかも対話形式の読みやすい形で紹介した、いわば新しいイエス理解の入門書です。同じくクロッサン氏の、初心者には少し読むのに苦労する『イエス あるユダヤ人貧農の革命的生涯』の、取っ付きやすいダイジェスト版とも言えるでしょう。

 1世紀の地中海世界に現れ、ローマ帝国の圧政とユダヤ人指導部による二重支配に立ち向かい、独特の仕方で神の王国を説き、演じて見せたイエスの抵抗の生涯が、いかに救いのない人々に救いを与えていったかを、わかりやすく説いています。
 特に、イエスにおける「神の王国」とは何であったのか、奇跡とは何であったのか、復活とは何であったのか、といった、キリスト者の間でも議論が分かれる問題を、クロッサン氏流の聖書読解で明快に解説しています。そこには「神にはなんでもできる」とか、「人間の理性では理解できないのだ」といったごまかしやはぐらかしの入る余地はありません。その中でも、復活に関する聖書の記事は、イエス亡き後の権威の所在に関する争いが背景にあるとの指摘には、目が覚める思いをする読者もたくさんおられるのではないでしょうか。

 このイエスの開かれた食事と癒しという形での抵抗の生涯と死の描写は、訳者も巻末に記しているように、田川建三氏のイエス論を連想させます。確かにクロッサン氏と田川氏のイエス論は似ています。しかし、やはり訳者が指摘していますが、田川氏は「イエスは神の子にまつりあげられた」としてキリスト教批判に向かうのに対し、クロッサン氏は「人々はイエスの中に神の臨在を見た」と解釈している点が違います。
 護教的という批判も受けそうですが、聖書から徹底的に神話や象徴の殻を剥ぎ取りつつも、キリスト教会が信じるべきポジティブなイエス像を示してくれるという点では、クロッサン氏のイエス像は教会にとって非常に有益な貢献なのではないかと思います。(もっとも、田川氏も『キリスト教思想への招待』という本では、キリスト教のポジティブな側面を十分に紹介してくれていますが)。

 「古代人が文字通りに伝えた話を象徴的に捉えてやるほど今の私たちが賢いのではなくて、古代人が象徴的に語ったものを文字通りに捉えてしまうほど今の私たちが鈍いのです」(p.104)というクロッサン氏の皮肉とユーモアの入り混じった一言が、私たちが聖書に躓いている時の状況を的確に突いています。
 この躓きを超えて、まぎれもない一人の人間であった、しかし人々がその生涯と死において神が働いていると確信した、実在の人間イエスに触れるうえで、絶好の入門書であると思います。
 この本はおすすめです。

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