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岡田尊司 『父という病
 岡田尊司著
 ポプラ社 2014年3月22日
  価格:1,400円 (+税)

 自分を知り、とらえなおし、新しい人生に歩み出すために
  精神科医、作家である岡田尊司氏の『母という病』はよく知られていますが、母親との関わりに端を発する人の生きづらさは、同時に父親との関係の問題とも表裏一体であり、この『父という病』がやがて出版されるのは必然であったように思われます。
 本書の全体としての印象ですが、少し著者は急いでこの本を書かれたのか、若干まとまりに欠けた、散漫な印象を受けました。
 歴史的人物や著者の経験に基づいた事例の紹介は豊富なのですが、それらの羅列のような面もありますので、もう少し項目を整理して、目次を工夫していただいて、読む側も頭を整理しやすいようにしていただけたらなあと思いました。
 
 しかし、それはともかく、この本は私個人の自己分析には非常に役立ちました。
 例えば、自分がなぜ権威的なものに対する反感が強いのか、また、なぜ人権問題に高い関心を持ちつつ、自分ではなかなか心底から他者の人権に配慮した行動が取りきれないという矛盾を抱えているのかなど、自分を理解するのに役立ちました。
 自分の中の矛盾に気づくことで、自分が本当に求めているものが何なのか、自分が一番価値を置いているものは何か、自分は何に幸福を感じるのか、等といったことを考えるヒントも与えられました。
 この本を読むことで、それらの自分の人格を作ってきた要因となった父親の影響について考えることができたわけですが、それは父親を悪人として断罪するようなものではありません。むしろ、自分を愛してはいたのだろうけれど、愛し方も愛の表現の仕方もわからず、本人も様々な悩みを抱えながら生きていた一人の人間として、改めて優しい気持ちで見つめ直すことができるようになるための助けとなるように書いてあります。(私自身はもう父を亡くしてしまっているので、このように冷静に書けるのかもしれませんが……)。
 愛し方を知らなかった父を赦し、問題だらけの自分を自分で受け容れ、新しい人生を歩む為のヒントを与えてくれているように感じます。

 それ以外にもこの本には、非常に画期的だと思われる点がありました。
 父親/夫からのDV(ドメスティック・バイオレンス)についての扱いは、これまでの関連本とは違っています。
 これまで、DVを扱う書物のほとんどは、暴力を振るう男性が悪い、男性は一方的に加害者で、女性は一方的に被害者だ、という見解に基づくものばかりでした。そして、どの書物も、DVを行なう男性はどうしようもない、変わりようがない、だから距離を取りなさい、離れなさい、逃げなさい、姿を隠しない、そして離婚しなさいというアドバイスに満ちたものばかりでした。
 確かに、暴力というものを外面的に捉え、法的責任を追究する視点に立てば、そうならざるを得ません。

 しかし本書は、人間の心理の観点から、そのような一方的な加害者・被害者のレッテルを貼ることで、この問題の真の解決はあるのだろうか、と問題提起しています。
 DVを行なう男性の心理はどのようにして作られてきたのかを解明し、どうすればその男性が成長し、変化し、その習性から脱出できるのか、という可能性について示唆しています。
 また、とても冒険的なことだと思いますが、この本は、男性が一方的に加害者とは言えず、関係の中では女性にも原因の一端があるということも指摘しています。
 これは決して、女性にも責任を追究するということではありません。そうではなく、暴力が起こる環境を男女共に作り出しているということであり、さらにその底にはそれぞれの親たちから与えられた病があるということを見つめてゆこうという呼びかけです。
 DVの専門書ではないためか、DVを行なう男性の心理の内奥にあるものの分析や、そのような男性がいかにして変化し、成長し、幸福な関係を築けるのかについての導きという面ではやや物足りないですが、少なくともDVの加害者としてのみ責任を追究されるばかりだった男性にとっては、希望を感じさせてくれる本だと思います。

 書評というよりは、やや個人的な思い入れのある感想となりましたが、以上のような点で、この本は非常に意義深いと感じました。
 そういう意味で、この本はオススメです。

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