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宗教教育研究会編 『宗教を考える教育
 宗教教育研究会編
 教文館 2010年8月30日
  価格:2,500円 (+税)

 宗教教育・キリスト教教育を志す人には必読の書
 
 これは、私学での宗教教育ではなく、国公立学校での宗教教育の可能性について書かれた、複数の筆者による論考集です。
従って、現在私立のキリスト教学校で行なわれているキリスト教教育について直接論じられたものではありませんが、そこから一旦遠ざかって、俯瞰的・中立的に宗教教育というものを見つめるには良い本であると感じました。

 この本の中では、宗教教育を3つの視点から考える方法が紹介されており、これは分かりやすく、宗教教育についての論議を深めるにあたり、頭を整理するのに有用であると思いました(p.110、磯岡哲也「国公立学校における『宗教を考える教育』の現状」より)。
(1)「宗派教育」(または教派教育)……生徒を信仰に導き信徒として教化育成する。
(2)宗教情操教育……信仰に導くことはしないが「宗教的情操」を培う。
(3)宗教知識教育……宗教に関する知識を得、宗教を理解させる。
 ただし、これらはあくまで整理するための理念型であり、実際の教育ではこれらは重層的に互いに組み込まれているというものです。
 教会での宗教教育は(1)の要素が強いものであり、学校での宗教教育は(2)(3)が強いものと一応言えることができるでしょう(例外は常にありますが)。
 ただ、(2)の信仰に導くことはしないが「宗教的情操」を培うということは、本当に可能なのか。信仰の対象というものを考えることなしに「宗教的情操」というものを想定することができるのか。そういった点で、疑問や問題点が残るとは言えそうです。
 しかし、これが従来の学校における便宜的分類であり、そのように日本の学校教育の中で理解されてきたということを知ることは大切なことです。

 また、冒頭より日本における宗教教育の歴史が概説されている点も、この本の良いところであると思います(頼住光子「近代日本における宗教と教育ー公教育における宗教教育の歴史」p.11-36。
 明治以降、敗戦に至るまでの皇民化教育が宗教教育の根幹に当たるものとして最重要課題とされたのは、多くの人が知る通りです。
 神道非宗教説により「国民の義務に反しない限り、信教の自由を認める」と言いつつ、その「国民の義務」が、実質的には天皇を天孫として崇敬する、あるいは天皇を最高祭司とする祭祀である神道を崇めるという宗教儀式であることは明らかでした。
 そして敗戦後、「神道指令」はGHQによって廃止されましたが、宗教的情操を養う教育もGHQは退けた方が安全であると判断したために、日本の国公立学校における宗教教育がタブー視される傾向が始まったと、本書では述べられています。
 その後、占領からの解放後も、日本の教育行政では「宗教的情操」について論議はされ続けるのですが、どうもまとまりがつかない状況が続いている。
 それはそもそも「宗教的情操」というものの定義が曖昧なままで論議が混迷しているという実態がもとにあるようです。

 さらにこの本の面白いところは、「よい宗教」と「悪い宗教」を判別する教育が必要であると明言しているところです(p.178-180、鈴木範久「『宗教を考える教育』では何を教えるか」より)。
 曰く、宗教には税制上優遇措置を設けている国が多いが、それは「宗教とは国家や社会にとってよい働きをするもの」という見方があるからである。しかし、実際は疑問である。脱税、虚偽の申告など、つくづく悪い宗教の存在には思い知らされた。無差別大量殺人から内部の権力争いや金銭欲などで、宗教に対する評価が下がり、宗教そのものの否定にまで及びがちである。
 「しかし、大切な点は、よい宗教と悪い宗教とを見分ける目をもつことである。よい宗教と悪い宗教の両者が世にあることは否定できない。両者を見分ける目を養うには、とりわけ「宗教を考える教育」が必要であること、それによって見分ける基準を身につけることが大切になる」(p.180)
 「他の分野と同じく宗教の分野を対象にした宗教評価基準というようなものが、社会に必要であると考えている」(p.180)
 賛否両論はあるでしょうが、このようにはっきりと宗教を分別する発想を端的に言葉に表した文献は少ないのではないかと思いました。生徒さんたちをカルトの被害から守るというだけではなく、生徒さん自身が質的に豊かな人生を歩むために有用な宗教を選ぶためにも、このような視点は必要ではないかと思わされた次第です。

 他にも、紹介すべき点はたくさんありますが、長文になりすぎますし、何よりこの本自体を読まれることをお勧めします。
 特に、学校における宗教教育、キリスト教教育に関心がある人は、(子どもたちにいかに教えるか、どんな道具や方法があるのか、という点で役立つ本ではありませんが、あくまで宗教教育の背景にある基礎知識を得るという面で)、必読の書であると思います。。

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