iChurch LIBRARY



三十番地図書室:「オススメします」のコーナー

三〇番地図書館の受付にもどる

初期キリスト教の礼拝 その概念と実践
 ポール・F・ブラッドショー 著
 荒瀬牧彦 訳
 日本キリスト教団出版局  2006年5月25日
  価格:2,500円 (+税)

 多様性がわかる「まとめ屋」ではなく「散らし屋」の仕事
 
  洗礼(バプテスマ)と聖餐(ユーカリスト)を中心に、その他の典礼をも含めて、その起源をたどって行く上で、参考となる教科書の1冊です。
 と言っても、ここであげられる典礼の起源については、イエス自身にさかのぼるものはほとんどありません。
 また、ごく初期のキリスト教における礼拝及び典礼については、みんなが思っているほど確実な事は分かっていません。
 そして、わずかな情報ではあっても、資料や知識が増えるほど、コンスタンティヌスあるいはニケア会議以前のキリスト教は、思いの外多様であったということがわかってくるばかりだということです。
 訳者(荒瀬牧彦先生)のあとがきには、著者(ブラッドショー)は「まとめ屋」ではなく「散らし屋」だということです(p.202)。つまり、幾つかのデータを並べて共通点を見つけ、分かりやすい結論を提示する学者ではなく、調べれば調べるほど、新しい事実が出てくることを紹介し、事実は実に多様性に満ちていて、とても単純にはまとめるわけにはいかないということを明らかにしてゆく人です。
 これは、単純に聖餐や洗礼の起源を割り切って「こうだ」と主張する人によっては都合の悪い真実を列挙することになりますが、私のような「初期キリスト教は多様性に満ちている」と考える人にとってはありがたい状況を提示していただけるということになります。しかもこの本は、はっきりとわかってない事柄については、「かも知れない」、「のように見える」という表現に必ず留めています。
 そして、少なくとも聖餐に関して言えば、イエスの最後の晩餐だけを聖餐の起源に据えるということには、無理があるということだけはこの本で明らかになります。それにより、イエス以前のユダヤ教の儀式的食事、生前のイエスの実践した食事の交わり、イエス以後の初代教会の食事の交わり、そして、その聖餐の食事にどのような意味づけを載せてゆくのかという時代と地域による多様性を知れば知るほど、自分たちは自分たちの教会の聖餐を硬直的な単一の教義で縛らなくても良く、自分たちの生きている「生活の座」をもとに、決定してゆけばよいのだという方向へと解放されるのです。
 多様性が明らかになるということは、はっきりした結論が出ないということであり、これにストレスを感じる人は多いでしょう。しかし、多様性こそが世の中の現実であり、それこそが個別のあり方の解放であると感じる人には、楽しい本だと思います。

ご購入ご希望の方は、
こちら(↓)
Clip to Evernote

iChurch LIBRARY

教会の玄関へ戻る
「キリスト教・下世話なQ&A」コーナを訪ねる

牧師にメールを送る