渡辺 聡 著
講談社、2015年2月20日
価格:1,000円 (+税)
誰にでも通じる事例ではないことを強調しておきます。
鬱の症状が出て、医師から服薬治療を受けるのだが、神との出会いによって、薬を飲む量が減り、鬱から次第に回復してゆく。小さな違いはあれど、基本的にはどの登場人物も、そのようなプロセスで新しい生き方を獲得してゆく、その姿をインタビューを基に再構成されたドキュメンタリー・タッチで描いています。
ただ、文体は大変読みやすく、テンポよく進むのですが、肝心の人間心理の変化があまりよくわかりません。
特に、登場する当事者たちが神や聖書の言葉に出会ったとき、心の中の何がどう変わったかは、基本的に説明されていません。気がついたら変わっていたといった具合です。
これらはまさに「宗教体験」「神秘体験」としか言いようがなく、結局理屈っぽい言葉で説明することはできないということなのかもしれません。
このような証言は、確かに神との出会いによって人間は変わりうるという証拠にはなるかもしれませんが、これらの証言によって他の人と体験を共有することはできるのかは疑問です。特にこれが集団的な宗教/神秘体験ではなく、個人的体験であるだけに、私は難しいのではないかと思います。
したがって、このような証言集をもって、「薬ではなく信仰によって鬱は寛解する」という一般化は非常に危険ではないかと思います。
(2020年9月15日記)
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