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 Q. 聖書って、どうしてあんなに値段が高いんですか?
生徒 「センセー、また聖書なくしました……」
先生 「え? また? この前、なくして買ったばかりじゃない」
生徒 「そうなんです。また買わないといけませんか?」
先生 「うーん、中古のでよかったら、ないこともないけど……」
生徒 「え? そうなんですか! じゃあ他にもなくしたって言ってるヤツがいるから、言ってきます!」
先生 「そんなにたくさんはないよ」
生徒 「でもね、先生。聖書って高すぎますよ。なんであんなにめちゃくちゃな値段するんですか? 聖書と讃美歌あわせて4200円だなんて」
先生 「でも中学・高校6年間使うと思ったら、6で割ったら、2冊で700円じゃないか、他の教科書と比べたら、安上がりだろう?」
生徒 「んー、そうか。でも、なくしたときのリスクが大きいっすよ」
先生 「だからなくさないように、大事に管理してよ。ひょっとしたら、一生ものの値打ちがある本なんだからさ」

(2004年5月にいただいたメールより再構成したもの)

 A. 「つくりがていねいだから」ということになってます、一応。
 聖書、高いですね。
 参考までに、たとえば日本聖書協会から出版されている「新共同訳聖書」ですが、いちばんよく流通していると思われるサイズであるA6版で2,940円。同じサイズの「讃美歌」(ここでは1954年版にしておきます)が1,260円ですから、あわせて4,200円ということになります。
 いちばん薄くて安い「讃美歌」であわせて4,200円ですから、これが「讃美歌第二編」つきとか、あるいは、もっと豊富に歌を収録している「讃美歌21」だったりしたら、もっと値段がハネあがってくるわけです。

 しかし、聖書に関して言えば、あれだけの情報量が詰め込まれていながら、あの分厚さで2,940円なら、案外「安い」という考え方もできます。
 あるいは、分厚さはともかくA6版という小さなサイズの割には高いように感じるのなら、高い理由は、やはりあれだけの分量の文字をこんなにコンパクトなサイズにおさめてしまう製本技術が優れているからだ、といわざるをえないように思います。
岩波版『新約聖書』

 たとえば、岩波書店などから、独自の新約聖書の翻訳本が出版されていたりします。新約聖書だけで、5冊セットになっています。B5版くらいの大きさで、5冊あわせて10センチくらいの分厚さになってしまいます。また、お値段は新約聖書だけで5冊合わせて12,700円です。これはなぜかというと、岩波書店から出ている新約聖書は、ふつうの本の作り方をしているからです。
 あるいはもっと高いのもご紹介しましょうか。田川建三さんの個人訳に註をつけた本は、この文章を書いている時点で出ている分だけでも、5冊合わせて27,400円です(まだヨハネ文書とヨハネの黙示録の巻が出ていません)。
 書店に置いてあるたいていの本と同じような作り方なら、それだけの冊数あるいは分厚さになってしまうところを、たとえば新共同訳聖書だと、A6版でたかだか1.1センチのなかにおさめてしまっているわけです。
 旧約・新約両方だと、ふつうの本の作り方なら、全巻あわせて50センチくらいの幅をとってもおかしくないのですが、これを、5センチ以内の分厚さにまとめているのが聖書なのです。
 そのためには、特殊な紙、特殊な製本技術が必要となります。

 活字が小さいということもありますが、それだけ薄い紙を使っているわけです。薄くて丈夫な紙です。ハンディサイズの辞典などで使われるのと同じような質の紙ですが、何度も何度も何年もくりかえしめくっても耐えられるように、しかも、多少ボールペンなどで書き込みをしても、裏に染み出したり写ったりしないような、薄くて丈夫な特殊な紙を使っています。(マジックペンなどではダメですが)
 また、本の背中の部分の裏側も、布地の繊維を使ったりなどして、かなり通常の本より丈夫につくってあります。
 このあたりの製本技術については、日本聖書協会のウェブサイトに詳しいので、そちらも参考にしてみてください。

田川建三訳と註『新約聖書』(ヨハネ文書等を除く)

さて、ここからは余談です……。

 ただし、聖書には、著者の著作権というものはありません。著作権は日本聖書協会に属しています。したがって、日本聖書協会はだれかに印税を払い続ける必要はありません。聖書の売り上げは、ほとんど材料費と制作費、流通費など以外は、ほとんど利益となるでしょう。
 しかも、「聖書は世界のベストセラー」と言われますが、実際その売り上げ冊数は大したものです。
 たとえば、かなりおおざっぱに試算しても、たとえば、日本の人口が1億と仮定し、その1パーセント(じっさいにはクリスチャンは1パーセントもいないけど、クリスチャンじゃなくても聖書は買って持っている、という人も含めて、仮に1パーセントと決める)が、一人1冊聖書を持っているとすれば、実に100万冊の聖書が売れている事になります。
 あるいは、日本で多く使われている聖書は、「新共同訳聖書」だけではなく、日本聖書刊行会の「新改訳聖書」もたくさん使われていますから、まぁ荒っぽく半分と見積もっても、50万冊は売れているということになりますね。50万冊売れたら、確かに超ベストセラーと言わざるをえません。
 しかも、毎年毎年、キリスト教学校などでは、新入生には義務として買わせているわけです。日本のキリスト教学校のうち、いちばん生徒数の多い、高等学校だけとっても67000人近くの生徒がおります。中学校だけでも29000人近くいます。たいていの中学校はそのまま同じ法人の高等学校に進学したりしますから、ここでは高校の人数だけ問題にしましょう。67000人を単純に3学年で3等分して、おおざっぱに、年に1回4月の新入学シーズンには、22000冊は売れていきます。このほか、短大、専門学校の生徒があわせて全学年で18000人程度、大学にいたっては全在籍数21万人程度いますが、その学生たちの全員ではなく、一部の学生が買っただけだとしても、1年間に少なく見積もっても2〜3万冊は売れていておかしくないわけです。
 大したプロモーションをしなくても、買うと決めて(あるいは「買いなさい」と命じられて)買っている人たちが大半ですから、ほとんど広告費はかかりません。
 そうなると、確かに高い製本技術とはいえ、これだけ大量生産したスケールメリットを考えると、この超大量販売の莫大な利益はどこに消えているのだろう、などと不信仰なことを、三十番地キリスト教会の牧師は考えてしまうのです……。
 確かに日本聖書協会は、世界の各地の聖書協会とともに、まだ聖書が行き渡っていない地域への聖書頒布運動や、いままで訳されていなかった言語への聖書翻訳運動などにも力を注いでいるようです。しかし、それにはそれのために献金も募っていますし……。
 他にも、点字聖書などは格安で頒布したりもしていますが、それも、全体の膨大な利益から考えると、微々たる事業ではないかと思えますし……。
 まぁいろいろと謎めいているように感じるわけであります。

 つまりは、「もう少し安くなりませんか」と言いたい気持ちもわかります、ということです。


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〔最終更新日:2005年5月23日〕

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