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 Q. 牧師先生を好きになってしまいました(私も牧師夫人になれますか?)

 教会に通っているうちに、好きな人ができました。その人は牧師先生です。私のような人間が牧師先生とお付き合いしてもよいものでしょうか。牧師と付き合う際に気をつけなくてはいけないことは何ですか? また、牧師と結婚する際には何が他の結婚と違うのでしょうか? 何か普通の人と違うことがあるのでしょうか、教えて下さい。

 A. 将来計画は慎重に。

▼大して違いはない、とも言える

 牧師には牧師という職業特有の要素というものはありますが、人間として何か特別の存在であるということは決してありませんので、別に牧師に恋人がいたって何の問題もないわけです。
 また、その牧師と恋人との関係が、やがて結婚の話に展開して、二人が結婚することになったとしても、特に問題はないと思われます。
 もちろん、その職業固有の注意点というものはあります。例えば、牧師というのは教会に集う人のプライバシーに関わることが多いですから、守秘義務というものが生じます。ですから、牧師が教会員の秘密について連れ合いのあなたに話してはならないというのが原則ですし、もしあなたが偶然それを知ってしまった場合は、そのことを二人で確認した上で、絶対に他言してはならないという約束なり覚悟をしなければなりません。
 しかし、その点は、医者なりカウンセラーなどの仕事についても同じことが言えるわけで、牧師だから特別だということはありません。どんな職業の人と結婚するにしても、気をつけなくてはいけないことは何ほどか生じるものです。

▼全く違う、とも言える

 その一方で、牧師の恋人になり、牧師と結婚するということは、他の職業の人とお付き合いしたり、結婚することと大幅に違うという場合もありえます。というより、従来その場合の方が多かったと言えるでしょう。
 一般論的に言って、従来から牧師というのは、先ほど教会員のプライバシーに触れることが多いと申しましたが、それ以上に教会員からプライバシーに干渉されることが多いのです。
 また、後に詳しく述べますが、多くのキリスト教の教会では、牧師の連れ合いに牧師と一緒に教会での奉仕に従事することを大幅に期待されている場合が多いのです。
 そのため、教会員たちの中には、牧師がどんな人と結婚するかというのは、牧師と一緒に教会で奉仕する人を決める一大事のように思っている人も結構います。牧師の恋愛や結婚というものに非常に関心が高いのです。
 従って、恋人の段階から交際中であることを公表しただけで、ものすごい好奇の目で見られたり、将来教会で奉仕するに足る人かどうかを値踏みするような目で見られたりする場合もあります。

▼いわゆる「牧師夫人」の存在

 従来型の典型的な牧師の結婚のパターンというのはこういうものです。
 牧師は男性で、妻は女性でクリスチャン。礼拝説教などで教会の信仰の大筋の指導は牧師がするけれども、例えば礼拝後の昼食の用意や、バザーなどでの様々な雑用を婦人会が行うにあたって(そのことを是非を論じるのは別の機会にいたしましょう)、婦人会のリーダー的な役割を担うのは、牧師の妻であるとされている。牧師が家庭訪問などを行う場合には、牧師と常に同行して、そのサポートをする。具体的には集会に集まった教会員たちの茶菓を用意したりなどの雑用をする。牧師の家にしょっちゅうやってくる教会の青年会などのグループや個人に、ご飯を飲み物を用意さてあげたりする。あるいはしょっちゅうやってくる相談事やお金の無心などの突然の訪問者に対して、牧師に代わって応対したりする。もちろんそのような仕事は全てシャドウワークで、賃金や手当が払われるわけではない。にも関わらず、教会で十分な奉仕をするために、妻には固有の職業に就く権利も認められない場合が多い……。
 このような男性牧師の補佐役としての牧師の妻のことを「牧師夫人」と呼んで、良きにつけ悪しきにつけ教会員たちは特別扱いをする、という歴史が長く続いてきました。

▼「牧師夫人」になりたい人

 このような「牧師夫人」に対しては、賛否両論が当然あります。
 教会の牧師夫婦は、教会の父母的存在でなくてはならないという思いが教会員の間に強く、それが「牧師夫人」に過重な負担を要求する反面、「牧師夫人」がこの上ない尊敬の的にされるということにつながっていたりします。
 教会によっては、「うちの教会は牧師よりは牧師夫人でもっている」と言う場合もありますが、牧師をからかっている反面、それだけ「牧師夫人」を敬愛しているということの表現にもなっているようです。はっきりと「牧師夫人は教会のお母さんです」とか、「牧師夫人は教会のファーストレディ」とか言う人もいます。
 このような「牧師夫人」に憧れる人もいます。「牧師夫人」に愛され育てられた教会の若い女性が、やがて自分も「牧師夫人」になって、牧師と一緒に宣教・伝道と奉仕の人生を送りたいと思うこともあるようです。そのために牧師とお付き合いをしたい、と相手を見る前から職業で結婚相手を選ぼうとする人もいます。
 もちろん、それとは逆に「自分のような人間はとても牧師夫人にはなれない」と引け目を感じて、牧師との恋愛や結婚から遠ざかろうとする人もいるようですが、「牧師夫人」というものに対する憧れの眼差しが根底にあるという意味では一緒です。

▼「牧師夫人」にはなりたくない人

 その反面、上述のような「牧師夫人」にはなりたくない人もいます。
 特に、個人主義的な意識の強い人や、私的生活と職業とは別のものであると考える人にとっては、ただ結婚しただけで夫の補佐役のように扱われたり、夫と一緒に奉仕することを当たり前のように期待されたり、無給での過重な奉仕には堪えられないようです。
 「私は牧師と結婚したのではなく、〇〇〇〇さんという個人と結婚したのよ」とか、「私は牧師と結婚したけれども、『牧師夫人』に就職したわけではない」と言う女性もいますが、これは女性としての自立を牧師の連れ合いに結果として認めない教会員達と夫に対するプロテストなわけです。
 それに、先述したように、「牧師夫人」に期待される奉仕には、教会での公の活動における働きだけではなく、牧師の家への訪問者の応対(突然アポなしで初対面、ということも往々にしてある。状況によってはかなり危険)などのシャドウワークも常に付きまといます。
 家庭のプライバシーがほとんど守られないというストレスフルな状況に、精神的にも肉体的にもほとほと参ってしまうという「牧師夫人」もたくさんおられます。
 こういう状況を冷静に観察して、「自分は牧師夫人にはなりたくない」と言う人がいるのは当然のことです。
 牧師と結婚しながらも、「牧師夫人」にはならないというプロテストを続けている女性もいますし、あえて夫のいる教会とは別の教会に行くという選択をすることも考えられるでしょう。

▼「牧師夫人」を求める牧師や教会

 一方、このような「牧師夫人」を求めている男性の牧師がいる時があります。
 最初から、どんな人と出会って結婚をしたいかということではなく、「牧師夫人」として自分の仕事をサポートしてくれる女性が欲しいという理由で結婚相手を探しているというケースです。
 また、教会が牧師を招聘(招く:世俗的な言い方をすれば「採用する」)しようとするときに、神学校に募集の手紙を送るときに、「男性、若い独身、または既婚男性」あるいはそれと似たような文言が書いてある時があります。これは、暗に牧師の妻は「牧師夫人」として奉仕することを期待してますよ、という意味を表しているのです。
 すでに述べたように、「牧師夫人」には多くの無償の奉仕が期待されます。それを喜んで引き受ける人もいますし、断固拒否する人もいます。
 あるいは、「牧師夫人」として奉仕を求めるのなら、「牧師夫人」にも牧師と同じだけの謝儀または給料を支払ってくださいと主張する牧師夫妻もおられます。経済的に苦しい教会では、「牧師の謝儀をそのまま分割しても構わないから」という苦しい闘いを強いられている場合もあります。

▼お付き合いするときに、よく話してくださいね

 随分延々と「牧師夫人」について、お話しすることになりましたが、要するに牧師の恋人というのは、その牧師の赴任している教会の人々の興味関心の対象にさらされるので、なかなかプライバシーを守りにくいということがあります。
 そして、その興味関心のベクトルは「結婚」→「牧師夫人」という方向にすぐに向いてしまうので、将来の計画なしにとりあえず交際するということも、なかなか難しくなります。
 ということは、お互いの将来の計画をおろそかにしたまま交際を続けていると、やがて思ってもみなかった結果になりかねないということです。まあこれは本当はどの結婚においても言えることなんですけどね。
 まあそれ以前にも、基本的に牧師というのは土日が忙しいので、土日が休日の人とはお付き合いしてもデートが結構困難であるとか。大抵の教会には「クリスマス礼拝」や「元旦礼拝」というものがあるので、クリスマスに二人でロマンチックな夜を過ごそうとか、元旦にはそれぞれのご家族のもとにご挨拶ということも不可能になります。
 というわけで、とにかく、牧師と交際する場合は、いろいろと確認しておかないといけないことがありますから、よく話し合ってお付き合いしたほうがいいですよ。
 牧師さんも、自分がお付き合いする人を、どのような運命に巻き込む可能性があるのかを、よく考えて交際するようにしましょう。
 

〔初版:2016年12月20日〕

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