iChurch LIBRARY

三〇番地図書館の受付にもどる

『ふしぎな「ふしぎなキリスト教」』

 
  ふツー連(ふしぎなキリスト教問題を考えるツイッター市民連合) 編
  ジャーラム新書001、2012年10月1日
  価格:1200円 (+税)

 「ふしキリ」の間違い資料集とキリスト教入門が一体になった本です。
 

 タイトルからもわかるように、この本は橋爪大三郎・大澤真彦『ふしぎなキリスト教』に対する応答の本です。
 ですから、基本的には『ふしぎなキリスト教』を読んでいる人が対象として想定されています。『ふしぎなキリスト教』を読んでいなければわからない所が確かにあります。
 しかし、本書はただの反論本ではなく、最後まで読めば、これはこれでひとつのキリスト教の入門書という形になっています。
 前半は、『ふしぎなキリスト教』の中の間違いや矛盾を逐一列挙していますので、これらをすべてきちんと読むのは少し骨が折れますので、細かいことをきちんと押さえておきたい人以外は、読み飛ばしてもよいかも知れません。
 ただ、こういう細かい作業は、誰かがやっておかねばならない仕事でしょうから、それを思い立って実行された方々には敬意と感謝を表したいと思います。そういう意味で、前半の「ふしキリ」問題点列挙は、資料編として利用するのがよいように思います。この本は、先に資料編があると思えばよいのではないかと思います。

 特に読者の皆さんにお勧めしたいのは、211ページ以降の正教会司祭であられるクリメント北原史門さんによる「なぜ『ふしぎなキリスト教』を批判するのか」です。「ふしキリ」の問題点に触れながら、実際の正教会の信仰をわかりやすい形で紹介してくれています。私も正教会については知らないことが多いので、たいへん興味深く読みました。
 また、300ページ以降の、日本キリスト改革派教会の牧師であられる松田基教さんによるカルヴァンの予定説についての「ふしキリ」の誤解を解く論考も、予定説の真髄をよく理解していなかった私にも、予定説を受け入れられるものに変えてくれたように感じます。
 さらには、311ページ以降の植田真理子さんによる「売れるキリスト教書の4つの法則」も、ややブラックではありますが笑えるものです。そして、「ふしキリ」のような、あるいは類似の参考書を使って、キリスト教の魂を売り渡すような「伝道」に、クリスチャン自身が陥ることのないように、と警告されているように思われます。毒はありますが、大切な提言だと思います。
 そして、309ページの青蛙亭主人さんの「人間がまるきり出てこない奇妙なキリスト教」という言葉こそ、「ふしキリ」および類似のキリスト教入門書の決定的な欠点を簡潔に示しています。

 本当にキリスト教のことを知りたければ、現実に日本で生きている、少数派とは言ってもたいていの大企業より人口は多い、あちこちのクリスチャンの話を聞けば一番良いのです。
 しかし、下手にクリスチャンと口を聞くと、伝道されちゃうんじゃないか、引き込まれるんじゃないかと多くの人は恐れています。それ自体が偏見ですが、そのような偏見を「ふしキリ」のような本の著者たちが利用するのです。
 こういう本があると、人々はクリスチャンと話さなくてもキリスト教のことが理解できるので、大変重宝するわけです。しかし、このような本は、キリスト教がいかに「奇妙」で「ふしぎ」かを喧伝するので、ますます生身のクリスチャンから話が遠ざかり、「クリスチャンとは話せない」という誤解をまき散らされてしまうのです。
 私たちが必要なのは、偏見を利用し、助長する本ではありません。普通に日本社会の中で生きている、キリスト教を信仰しているだけの、ありきたりな人間を等身大に紹介してくれる本です。 
 生身の生きた人間が、何を頼りに、また何を支えに生きているのか、何に救いを見出すのか、それをわかりやすく紹介する良い本が出ることを祈りたいです。またそういう本を作る仕事なら、よろこんで協力したいです。
 (2012年12月31日記)

ご購入希望の方は、
こちら(↓)

教会の玄関へ戻る
「キリスト教・下世話なQ&A」コーナを訪ねる

牧師にメールを送る